キーワード:うつ病、休職、復職、職場復帰、試し出社、リワーク
【事例】
45才事務職。元々まじめで几帳面な性格もあって仕事の評価は高かった。43歳時に昇進したが、部下に仕事の負担を強いるのがつらく、自分でたくさんの仕事を抱え込んでしまい、残業や休日出勤が常態化していた。それでもたまの休日には趣味の美術館巡りなどはできていた。ところが最近、ありえないような仕事上のミスが目立つ様になってきた。以降突然涙が出てきたり、眠れなくなり、食欲も落ち、たまの休日も寝てばかりいるようになった。明らかにしんどそうにしているのを上司や同僚が見かねて、勧められるままに精神科を受診した。うつ病の診断のもと、取り急ぎ1か月の休業加療を指示された。本人は休職すると自分の仕事を同僚にしてもらうことが負担になるのではと考え、休職に難色を示したが、周囲の説得もあって休職に応じた。休職中には周囲に迷惑をかけていることを気に病み、たびたび職場に電話をしてほかの従業員に託した仕事の状況を確認しており、休職中であるにもかかわらず仕事のことが頭から離れていなかった。通院加療を続け、食欲などは回復傾向にはあったものの、まだ表情も暗く、家族は休職を続けるものと思っていたが、単独で診察した際によくなったことをアピールし職場復帰を希望した、その結果主治医から復職可能の診断書がでてきた。
一定期間の療養を経て復職を希望しているものの、療養が不十分で復職することに懸念が感じられるケースです。休職に至る経緯を踏まえても仕事への責任感が強い方であり、復職に向かうにあたっても自分の体調を後回しにして無理をしているという印象が拭えません。このようなケースで、主治医の診断書を根拠に復職を許可することは適切と言えるのでしょうか?
医学的な観点から
うつ病になりやすい性格傾向として社会的役割や規範を重要視し、自分の決めた目標やルールにうるさく、几帳面で、周りの人への気遣いに長けているといった傾向があります。ですので仕事熱心で仕事の評価も高い方が多いです。こういった性格傾向のことを「メランコリー親和型」と呼び、昔からうつ病になりやすい性格として知られています。また、うつ症状を呈して頭が回らず、集中力、判断力が低下した場合、進まない仕事に対して強い焦りと不安を感じ、働かない頭で残業を繰り返し、疲弊したり、周りに迷惑をかけているという強い自責感を持ったりします。休業中も仕事のことを気にしてばかりいて、回復が不十分であるにもかかわらず復職を希望され、その結果すぐに再度休職するという方も少なからずいます。
うつ病の休職においては最初から規則正しい生活を求めるのではなく、まず最初は日中ゴロゴロ何もせず過ごしてもらい、睡眠や食欲など日常生活レベルの回復を待ちましょう。これらの回復が見られるようなら次に就労可能なレベルを目指して早寝早起きしたり、仕事にまつわるようなことをする機会を増やして段階的に復職に向けて準備することが求められます。
また休職当初には職場と連絡を取るのは最低限にとどめることが推奨されます。仕事のことを意識するのは回復してきてからで構いません。
労務管理の観点から
本ケースのように復職可能とする診断書が提出された段階は、実は復職における5つのステップのうち2つ目のステップに過ぎません。厚生労働省が発行している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職支援を5つのステップに区分し、事業所がどのように復職の支援をしていけば良いかが詳細にまとめられています。メンタルヘルス不調で休業した従業員の復職をサポートしていく上で基本テキストとなる手引きですので、人事労務担当者の方にはまずこの手引きを精読することをお勧めします。本記事でも、この手引きを参考にしながら解説を進めていきます。
さて、このケースではまだ回復が不十分であると思われるにもかかわらず、復職を希望されています。主治医による診断は日常生活における病状回復の程度から判断しているので復職可能の診断書が出ても、必ずしも職場で求めている業務遂行能力まで回復しているとは限りません。もし復職には不安が残る状態であるのに主治医が復職可能の診断書を発行してきた場合には、産業医を通じて別途意見書を求めることも必要かもしれません。
復職が可能なタイミングとして、このケースのように復職しようという気持ちが「戻らなくてはいけない」という義務感や焦りからくるものであるときは、少し慎重になった方がいいでしょう。「そろそろ仕事をしてみてもいいな」「働きたいな」と無理なく思える状況が望ましいでしょう。ただし復職への意欲は、復職を判断する目安の一つにすぎません。
・休職の原因となった症状は消退しているか
・起床時間や日中の生活リズムが勤務に耐えられるようなものか
・元気な時の休日のように過ごせているか
・体調管理のポイントを理解しているか
・このような安定した状態が少なくとも1か月は続いているか
なども確認する必要があります。
また復職に際しても、安全でスムーズな職場復帰を支援するために職場復帰支援プランをたて、慣らし出勤、リハビリ勤務などを採用したり、リワーク施設の利用を進め、復職に向けてのトレーニングをしていただくといった方法もあります。前もってルールとして定めておくといいかもしれません。なお、リワーク施設に関しては、各都道府県の地域障害者職業センターでも行っていますし、医療機関に併設されている場合もあります。
復職した後も、残業、出張などを一定期間就業上の制限を加えることで復職時から「遅れを取り戻さないと」「迷惑かけた分頑張らないと」と考えて無理させないような対応が必要となってきます。職場復帰後も定期的なフォローアップを行うことも重要です。
今回のような事例で時期尚早な復職となってしまった場合、再休職に至る危険性も高くなります。そうならないために上記のような確認や支援を行うためには、メンタルヘルスの問題に精通した産業医の関与が欠かせません。自社の復職支援体制は十分なものになっているか、今一度確認してみてください。
厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
I-QUONでは、事業所でのメンタルヘルスをはじめとした安全衛生管理体制の構築のためのサポートなど、手厚いコンサルティングを心がけております。医療法人を母体とした企業であり、従業員様の健康に関するご相談なども受け付けております。お気軽にお問い合わせください。