キーワード:うつ病、休職、復職、職場復帰、試し出社、リワーク
【事例】
30才 男性。
初めての休職は5年ほど前のことである。適応障害の診断書が提出され、有休消化と休職を合わせて3ヶ月ほどの休業となった。過去に受講したメンタルヘルス研修で休職は年単位に及ぶことも多いと聞いていた人事労務担当者や上司は当初「思ったほど長期化せず良かった」と安堵していたが、事態はこれで終わらなかった。復職から3ヶ月を経たずして、休業を要する旨が記載された診断書が提出されたのである。そして現在、本人は5回目の休職期間中にある。
2回目の休職以降、休職と復職を3〜6ヶ月程度の短いスパンで複数回繰り返しているのである。就業可能の診断書が提出される度に、人事から時期尚早でないか確認し、本人の希望に応じて復職部署を変えたりしているが、半年以上就労を継続することがない。事業所には産業医がおらず、休職に関連する就業規則や制度なども整っていない。人事としては、診断書を判断の根拠とする他なく対応に困っている。
本事例は、復職しても再休職してしまい、しかもそれが複数回にわたって繰り返されてしまっているというものです。このような事態に陥ると、復職しても本人に業務を任せにくくなるだけでなく、休職・復職のたびに様々な事務手続きや引き継ぎ作業が必要となります。また、周囲の従業員の負担になったり、モチベーションを削ぐ要因になったりする恐れもあります。医療的対応、労務的対応の両面から、確実な復職ができるような支援を行い、仕組みを整えていく必要があります。
医学的な観点から
本事例のように就業可能の診断が出たにも関わらず、半年以内に再休業してしまう場合、医療的な観点からは2つの点を確認、考慮しなくてはなりません。
まず、1つ目は復職後に服薬が中断されていなかったかという点です。適応障害やうつ病などの抑うつ症状は、通常抗うつ薬を用いた治療を行うことになりますが、抗うつ薬は症状の治療だけでなく、再発予防という点において重要な役割を担っています。不調のきっかけが職場のストレスであった場合、職場復帰するとまた同様のストレスにさらされることになります。この時、服薬が継続されていれば、ストレス状況を上手く乗り切れるかもしれませんが、服薬を中断してしまっていると発病時と同じ状況になり、症状が再燃する恐れがあります。
もう一つは、再発予防が出来ていたかという点です。うつ病は再発リスクが比較的高い精神疾患であり、うつ病を初発した患者の約50~60%が再発し、再発を繰り返すごとに再発率が上がる(患者の半数は5年以内に再発する)という結果を示した研究もあります。したがって、適応障害やうつ病による抑うつ症状の治療においては、症状が治った後も一定期間服薬を続け、再発予防に備えるということが重要なのです。しかし、患者さんの中には、症状が良くなってすぐに服薬や通院をやめてしまう方がおられます。本事例においても服薬、または通院そのものを中断していた恐れがありますので、まずは服薬と通院の状況を確認しましょう。
労務管理の観点から
事業所における復職支援の仕組みを整えていくにあたっては、厚生労働省が発行している「心の健康問題に休業した労働者の職場復帰支援の手引き(以下、同手引き)」を参考にするのが良いでしょう。同手引きでは、職場復帰までのプロセスを5つのステップに分け、各段階において事業所がどのような対応を取るべきかについてまとめられています。
同手引きの第3ステップには、産業医から主治医に対し意見書を求めるという手続きが含まれています。意見書とは、病気の回復段階や事業所が行うべき支援や配慮等について、診断書よりも詳細な形で記載するものです。主治医の側も、意見書をまとめるにあたっては、患者さんの仕事内容などについて知らなくてはいけませんから、意見書を求める場合は、事業所側からも本人の業務概要などが示されることになります。従って、主治医意見書の依頼と取得というプロセスを通じて、事業所と主治医が情報や意見を交換、共有することができるようになり、復職の可否判断がより厳密なものとなることが期待できます。
ちなみに、同手引きでは主治医への意見書の依頼と取得は産業医が行うべき手続きとされています。後述する産業医面談を含め、復職判定を正確に行うためには、産業医の協力が欠かせないことを覚えておいてください。産業医の選任義務がない50名未満の事業所でも、信頼できる医師と顧問医契約を結んでおくことをお勧めします。
さて、主治医の意見書を取得することができたら、次の段階としては産業医面談を行うことが望ましいでしょう。産業医は主治医に比べ、事業所の事業内容や本人の業務内容についても詳細に把握できる立場です。事業所がどの程度の回復レベルを職場復帰の基準と考えているかも理解した上で、事業所に意見を提供してくれるでしょう。
本事例においては、上記の通り主治医意見書の取得と産業医面談を実施していれば、療養が十分であるかを見極め、職場復帰後にどのような支援や配慮が必要だったかを把握できた可能性があります。職場復帰の判断は主治医診断書1枚によってのみ行われるべきものではありません。診断書に就業可能との記載がある場合でも、主治医意見書の取得と産業医面談のプロセスを経ることで、休職継続が妥当と結論づけられることも多くあります。
そのような時、休職者本人は、復職が許可されないことに不満や不信感を抱くかもしれません。しかし、復職の成否は、復職後に安定した就業を継続できるかによって判断されるものです。早く復職しても、その後再休職に至ってしまったら本末転倒と言わざるを得ません。復職支援においては確実性を重視する考え方が重要であり、そのことは人事労務担当者や管理職だけでなく、休職者本人にも共有されるべきことです。なぜ意見書の取得や産業医面談を義務づけるのかという点について丁寧に説明し、その手続きは誰よりもまず休職者本人のために必要であるということを理解してもらえるようにしましょう。
厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
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