代表の稲田礼子です。
本コラムは、私が日頃の産業医活動の中で行なっている講話から、一部をご紹介するものです。健康経営※に取り組む皆様のお役に立ちますと幸いです。
今回は新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う事業所での感染対策の考え方についてです。
2類から5類へ なにが変わるの?
感染症法では、危険度に応じて感染症を1~5類に分類しています。
新型コロナウイルス感染症は、発生当初は危険度の高い2類とされていましたが、5/8から5類へと移行しました。
これまでは行政が主導して対策を打ってきましたが、今後は「個人や事業所に判断を委ねる」とされています。
具体的な変更点としては
・対応できる診療機関が増える
・「発生届」「濃厚接触者」「外出自粛要請」がなくなる
ただし、感染後5日間は外出を控えることが推奨されている
・検査費の自己負担
・自治体の健康フォローアップセンターや宿泊療養施設の終了
などが挙げられます。
政府が作ったルールに従って対応していくのではなく、ガイドラインを参考に自分たちの職場に応じたルールを作っていく必要があります。
「個人の判断」 感染対策はどうする?
今回は、マスクの着用を例に感染対策についてまとめてみたいと思います。
マスクの着用については、厚生労働省から引き続き情報発信がされています*¹。
こういった情報は参考になりますが、記述のない部分で迷われる方も多いと思います。
そこで今回は、マスクの着用に関する科学的知見をご紹介します。
研究論文は症例数や分析方法によってデータの信頼度が異なりますが、ある程度普遍的な知見が得られます。
そのため、事業所でのルール作成など、中長期的に運用する基準を考える際には非常に有用な情報です。
日常生活でのマスク着用については、7か国5,242名のデータをメタ分析した研究があります*²。
メタ分析は、ある条件に合う信頼性・妥当性の高い研究のみを集め、複数の研究で共通した傾向を示す方法で、非常に信頼性の高い結果が得られる分析です。
この研究では、マスクを着用していない人の2週間の感染リスクを1倍としたとき、着用している人の感染リスクは0.76倍に低下するという結果が示されています。
つまり、基本的には、マスクの着用を継続することが感染症予防に有用だとわかります。
また、アメリカで行われた大規模調査では、13歳から99歳の参加者による379,207件のデータを分析し、マスクの着用率が10%上がると、3.53倍、流行を抑えやすくなると推定されています*³。
この結果から、人の多い場所、従業員の多い事業所等では、マスクの着用率が高いほど集団感染が起きにくくなるだろうと考えられます。
他にも、1m以上の物理的距離が感染予防に効果的であり、マスクをすることで大幅に感染リスクが低下すると示した研究もあります*⁴。
製造業の現場など、1mの距離を確保できない場合にはマスクの着用が有用だと言えるでしょう。
今回は3つの論文をご紹介しました。マスク着用の判断にお役立てください。
さいごに
法律上の位置づけが変わっても、新型コロナウイルス感染症がなくなったわけではなく、基本的な感染症対策は変わりません。
場面ごとのリスクと、ご自身の体調を鑑みて判断していくことをお勧めします。
もしも感染症に罹患した場合には、体調の回復を優先し無理に出社をしないこと、体調回復後も周囲への感染リスクに配慮することが大切です。
また、事業所のルールを確認し、組織として対応することで、集団発生を防いでいただきたいと思います。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
参考:
*¹マスクの着用について
*²Efficacy and practice of facemask use in general population: a systematic review and meta-analysis
*³Mask-wearing and control of SARS-CoV-2 transmission in the USA: a cross-sectional study
*⁴Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis