本コラムは、日頃の産業医活動の中で行なっている講話から、一部をご紹介するものです。健康経営※に取り組む皆様のお役に立ちますと幸いです。
ストレスチェックが義務化された2015年から来年で10年と、実施にも慣れてきたものの、活用方法がわからないとのお声もよく耳にします。
ストレスチェックは実施後の分析や周知方法次第で、非常に活用できるツールです。
そこで、今回から4回シリーズで健康診断結果に関連したお話をお送りします。
既に今年のストレスチェックを受けられた方もこれから受けられる方も、結果の確認や活用にぜひ参考にしてください。
「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の構成
57の項目は、大きく3つの因子に分かれています。
①ストレスの原因と考えられる因子では、「職業性ストレス」とあるように、仕事の負担感、コントロール度、働きがいなどの項目が含まれます。
主に業務面のストレスを測っているため、①にストレスが高い結果がある場合は、業務や配置の適正化が求められます。
ただし、この調査票では業務量が多い、責任感があるといった質的負荷が高いとストレスが高く評価され、主観的に本人が負担に感じているかどうかについては測定されていない点に注意が必要です。
②ストレスによっておこる心身の反応では、実際に心身にストレス反応が出ているかどうかを問う項目です。
②で1.5点以下の項目がある場合や、値が低いものが複数ある場合には、不調のサインかもしれません。
睡眠やリラックスした時間などの休養をしっかりとり、症状が続く場合は医療機関への受診も検討しましょう。
また、高ストレス者の面接指導対象者を判定する基準の一つでもありますので、対象者になった場合は医師による面接指導も活用してください。
③ストレス反応に影響を与える他の因子では、ストレスの緩和要因について測定しています。
この因子は「修復要因」と表現されることもあり、周囲のサポート等があると、ある程度ストレスがかかっても元気な状態に戻りやすいと考えられています。
反対に、今はストレス反応がみられない方でも、③の項目でサポートや満足度が低く感じられているとの結果であれば、業務量の増加などのストレスが重なると不調になりやすい状態かもしれません。
切羽詰まったときに相談相手を探すことは難しい場合もありますので、困ったときに相談できる相手を増やすことがストレスから身を守ることに繋がります。
「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」の特徴
「労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書」では、次のような特徴が挙げられています。
- 従来のストレス反応のみを測定する多くの調査票と異なり、職場におけるストレス要因をも同時に評価できること
- 心理的なストレス反応の中でネガティブな反応だけでなくポジティブな反応も評価できること
- 身体的なストレス反応や修飾要因も評価する多軸的評価法とであること
- 労働現場で簡便に使用可能とするために質問項目は 57 項目と少なく約 10 分で回答できること
- あらゆる業種の職場で使用できる調査票であること
- 被験者本人が記入する自記式調査票であること
反対に、以下のような点については、この調査票では測定できていないことも特徴です。
- 自己記入式であるため、本人が自覚していない症状、回答したくないことについては正しく測定できない
- 調査時点のストレス状況しか把握できない
- 簡易版であり、プライベートの要因やストレス対処などの評価はできない
- あくまで仕事上の一時的なストレス状態を測るものであり、うつ病や適応障害といった疾病のスクリーニングはできない
職業性ストレス簡易調査票では、職場における業務・サポート面でのストレス要因と、回答者の自覚的なストレス反応の程度を知ることができます。
個人結果の返却を通して、労働者自身のストレスへの気づきを促進することができますが、結果をみて何をどうすれば良いのかわからず、放置してしまっていることもあると思います。
結果をみてストレスに対処するという部分については、第2弾「ストレスコーピング」でご紹介します。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
参考:
- 厚生労働省 労働の場におけるストレス及びその健康影響に関する研究報告書